今回こちらの御宅の造園のお話をいただいたとき、家周りの全てを任せていただく事になり大変頭を悩ませました。お施主様が実際住まわれる際各部屋からどのようなお庭を見て楽しまれるか、家の中のからそして屋外における人の動線、外界からの視線、お庭の各部分の用途など、お庭を総合的かつ多角的に見つめ使い勝手が良く管理もしやすい庭を目指しました。そのため建築における間取りのようにお庭に関しても「地割」を徹底的に吟味しました。また庭と建物それぞれがお互いに美しく、引き立てあうように庭の各要素(垣根・飛び石・樹木・下草など)を配置し、嫌味のない範囲で各所に工夫とこだわりを持たせています。
リビング前は第二のリビングとなるように4畳ほどのウッドデッキを設け夕涼みやBBQなどを楽しめるスペースとしました。またそこから一段下がったところにはコンクリート土間を打設し、物干しスペースとしました。こちらの土間の天井はガラス製のもので、雨を防ぎつつ日当たりは良いもので洗濯物の乾きが進みそうです。隣地駐車場境界の大和塀とウッドデッキの間には60cmの植栽スペースを設け、ツガを列植し大和塀のやや重たい印象を和らげるようにしています。そして植栽スペースにはかなりゆとりを持たせていますので、お施主様の方でお好きな草花を植えられるようになっております。ウッドデッキおよびその周りのスペースはプライベートなものですので、玄関アプローチとの間には垣根(板垣および鉄砲垣と板戸)を設置し来客の視線を感じることがないように配慮しました。
玄関アプローチは瓦によって縁取りした洗い出し仕上げとし、所々に古い葛石や板石を各所に配置し、ふっと力が抜けるような印象を出しました。アプローチには”ぐいち”を一箇所設け動線に変化を持たせつつ、アプローチの幅は十分に持たせており大変歩きやすいものとなりました。アプローチ周りには、石で囲った盛土の植栽スペースに台杉(10年以上前からの預かり品)を植栽し玄関前のスペースに格式を醸し出すようにする一方、アプローチを挟んで反対側には雑木を主体とした植栽(ナツツバキ・サワフタギ・イロハモミジ・ザイフリボクなど)を設け対比を楽しめるようにしました。台杉の足元には景石を兼ねた台石の上に形のよい六角の置燈籠を設置し空間を引き締めました。曲線のなだらかな字模様で地表面はスギゴケで覆いました。また玄関ポーチには縦格子のスリットがあり、その前にはカクレミノを植栽し玄関周りの印象を和らげました。アプローチスペースの台杉奥は和室に面した庭園になるため、こちらも視線を止めるための板垣と御簾垣を設けました。和室前の庭園までは40cm角の古い御影板石を飛び石としてリズミカルに配置しました。
和室前の庭園には三和土の犬走りを施工し、掃き出し窓の前にはウッドデッキ材を用いて濡れ縁を施工しました。濡れ縁前には丹波鞍馬石の沓脱石を据付け、濡れ縁に腰掛けてお庭を眺められるようにしました。沓脱石と二番石からは延段を施工しました。延段は今となっては貴重な宝殿石の葛石や川丹波石を用い、贅沢な仕上げとなっています。延段からは飛び石と枝折り戸を経て玄関アプローチへと続くようになっています。延段のそばにはなかなか彫りのいい春日灯篭を設置し点景としました。延段奥には石積みと葛石、景石で直線的に区画しそれぞれに雑木を植栽しました。石材だけでは硬い印象のところ、雑木や灌木類、山野草や苔を用いることによって奥行きを感じられかつ柔らかい印象の風景を持たせることに成功しました。
道路側からこの御宅を眺めてみると、板塀→植栽→建物と複層的な景色の変遷が楽しめ、空間に奥行きを感じ取れます。全体としては伝統的な庭園の特徴をそこかしこと散りばめて造園を進めてまいりましたが、用いる植物(雑木類・山野草類)のおかげで、野山の中にいるような雰囲気を感じられるようにすることに成功しました。季節ごとの花々や紅葉などが楽しめて、我々の目指す四季の移ろいを感じられホッとする庭、というものを実現することができました。
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